1. 引越し直前の難関
今回のお話は、引越し直前に起こった、ある心温まる出来事です。
当時、我が家は遠方への引越しを控え、不要品の処分に追われていました。
荷物はできるだけ自分たちで整理・運搬し、費用を抑える工夫をしていたのです。
当時の我が家はマンションの2階にありました。
このマンションにはエレベーターがありません。
私たちが結婚する前から、夫が暮らしていて、引越し時で20年が経っていました。
物を大事にする夫は、とにかく物持ち。
引越しを機に処分した、物は数も量も膨大でした。
引越しが押し迫ったその日は、行政の粗大ごみ回収日前日。
この回収日を逃すと、後は自分たちで民間の回収業者に依頼しなければなりません。
行政と民間の、粗大ごみ回収をそれぞれ利用された方なら、お分かりかと思うのですが、
同じ物の回収でも、行政なら数百円のところ、民間は数千円以上かかることもあります。
ですから、なんとしても、明日の行政の粗大ごみ回収に、出したい状況でした。
私は一生懸命、物を運び出しました。
かなり大型の家具なども、頑張りました。
しかし、どうしても運び出せなかったのが、「大きくて重たい机」でした。
エレベーター無しで、階段から一人で運び出すには、あまりに危険なサイズだったのです。
2. 力仕事ができる人がいない現実
実は、当時の我が家には事情がありました。
夫は病気のため、力仕事が難しい状態だったのです。
そのうえ、この頃は体調も優れず、いつも以上に無理ができませんでした。
「引越しの力仕事は、自分がやるしかない」
そう覚悟していました。
しかし、その机は私ひとりではどうにもならないほど、
大きくて、とにかく重たいものでした。
不用品回収業者に頼むことも考えましたが、
高額になる可能性があり、ギリギリの引越し費用では難しい選択でした。
私自身も、連日深夜まで作業を続けていたせいで
心も身体もすでに限界に近い状態。
視野が狭くなり、誰にも助けを求められませんでした。
「もう見積もりも終わっているけれど、
今からでも引越し業者さんにお願いできないだろうか…」
そんな“非常識なこと”ばかり思いつくほど、追い詰められていたのです。
3. 思い切って声をかけてみた
そんな状況の中、用事の帰りにタクシーに乗る機会がありました。
その時、なぜかふと
「この人に相談してみようかな」
という気持ちが湧いたのです。
胸がドキドキしながらも、思い切って声をかけてみました。
「今、ちょっと困っていて……」
私はゆっくりと言葉を並べました。
明日の朝、行政の廃品回収を予約していること。
しかし、一人ではどうしても運べないほど、大きくて重たい机があること。
エレベーターのないマンションで、家族は病気で力仕事ができないこと。
家に着いたら、2階から1階のゴミ置き場まで
その机を運ぶのを手伝っていただけないかというお願い――。
そして、少ないけれど謝礼もお渡ししたいこと。
思いつく限りの状況を、ひとつひとつ、真剣に伝えました。
最初は戸惑われてしまうのでは……と心配していました。
でも話し終えると、ドライバーさんは笑顔で、こんなふうに言ってくれたのです。
「いいですよ。大丈夫です。手伝いますよ。」
その言葉を聞いた瞬間、
安心と嬉しさが一気に胸に広がって、
思わず涙がこぼれそうになりました。
4. 階段から一緒に運び出した
そして本当に、私とタクシードライバーさんは、力仕事が出来ない病気の家族が見守る中、大きくて重たい机を私と二人で抱え、階段を下ろし、外まで運び出すのを手伝ってくれたのです。
「よいしょ、もう少しで角が抜けるよ」
「こっち持ち上げますね!」
そんな風に声を掛け合いながら。
無事にマンションの所定のゴミ置き場まで、搬出完了した時の安堵感は、今でも忘れられません。
5. 「お礼なんていいですよ」の言葉
作業が終わった後。
タクシードライバーさんは、お礼としてお渡ししようとする謝礼を何度も断ってきました。
タクシードライバーさん:「いやいや、いいですよ、そんなの」
私:「でも、お願いしたのはこちらですし、お約束ですから、どうか受け取ってください。
本当に助かりました。
少ないですけど、お茶でも飲んでいただけたら嬉しいです。」
そんな遣り取りを何度か繰り返した末、差し出した謝礼を、優しく微笑んで受け取ってくれた姿が印象的でした。
6. 見知らぬ人の温かさに救われた日
この時、私は本当に助かりました。
今、振り返ると、「人の優しさ」に救われた出来事だったと感じます。
あのまま一人で無理をして、重い机を階段から粗大ごみに出そうとしていたら、ケガをしていたかもしれません。
粗大ごみに出すことを諦めたとしても、今度は、その後の面倒な手続きに、頭を悩ませる事になっていたと思います。
知らない人の“ほんの少しの手助け”が、
どれだけ大きな支えになるかを実感しました。
7. 同じような悩みを抱えている方へ
もしかすると、この記事を読んでいるあなたも、
「引越しが近いのに、力仕事ができない」
「頼れる人がまわりにいない」
そんな不安や悩みを、ひとりで抱えているかもしれません。
でも、そんな時こそ――
思い切って、誰かに声をかけてみることも大切です。
ご近所さんでも、
顔なじみの配送業者さんでも、
たまたま乗ったタクシーの運転手さんでも構いません。
もし相手が手伝えない状況だったとしても、
“その人が知っている誰か” や
“相談すべき窓口” に繋いでもらえることだってあります。
大丈夫。
あなたは一人で全部を背負わなくていいんです。
ほんの少しの勇気でかけたそのひと言が、
思いがけない「助け」や「出会い」、
そして「解決」へとつながることが必ずあります。
8. まとめ:引越しは人との繋がりも支えに
引越しは、モノの移動だけではなく、「人の思い」にも触れる機会。
あの日、タクシードライバーさんが見せてくれた優しさは、まるで天使のギフトのようでした。
引越し準備に追われ、心が擦り減った私に、希望や勇気をくれました。
おかげ様で、無事引越しできて、今では元気な私。
今度は私が誰かの、力になってあげたいと思っています。
この体験のエピソードが、少しでも誰かの参考や希望になれば、幸いです。

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